DAY7ーPART2
満身創痍


T橋さん「クラゴン調子は?」
クラゴン「絶好調で〜す」
T橋さん「ボチボチピットインなんだけど次のドライバーはどうします?」
クラゴン「………岸本さんにお願いしましょう」
T橋さん
「了解」


多くは語らず、なぜ岸本さんか全てわかって「了解」。これがレースメカニックです。

純正メーターの燃料目盛りがひとつになった時点で無線を入れてピットイン。まだ夜明けというにはちょっと暗い午前5時16分、岸本さんに交代して夜のお役御免です。いや〜死ななくてよかった!

ニュルチャレンジの第一人者、スプーンの市嶋さんによると、1年目で夜明けを迎えられれば100点! しかも燃費はなんとリッター当たり8.11キロ! 13分前後のタイムでこの燃費はかなりいいですよ。

申し訳ないことに岸本さんの負担は増えてしまいましたが、ここは何とか乗り切ってもらうしかありません。


パドックの夜明け風景もいいでしょ。パドックは寝静まっていても、レースは続きます。



ここで大切な腹ごしらえタイム! サーキットレストランのテーブルをチームでリザーブしてあって、そこに朝メシにGO!


レースは岸本さんとメカのみなさんにおまかせ。この週末で一番大切な仕事をしたんだから、メシを食ってあとのスティントにそなえるのも大切な仕事です。

が! ここで大トラブルが発生! 木曜日の時点での「テーブルを用意しておくし、24時間いつでもメシが食えるようになってるよ」というレストランのシェフの言葉を信じて行ってみれば、あったのはまずい紅茶とコーヒーとクロワッサンのみ。

走行後で凶暴になっていたこともあって(笑)、そのシェフをつかまえて「Any time OKって言ったのはどーなっとるんじゃー!」と猛講義をしてやりましたよ。そしたら先方は「そうだったかもしんないけど契約書にちゃんとメシ食える時間は書いてあるよ」とのたまうではありませんか!

契約書なんて知らねーぞ。契約といえば…みんなから金を集めたM氏! またコイツか! 嫌な話だけど、レース後にM氏とドライバーの間でさんざんもめたときに、オレのM氏に対する怒り度合いがみんなと違うのは、ここでオレはメシを食えなかったからかもしれません(笑)。

食い物の怨みってコワイですねえ。

たかがメシで、と思う人は24時間レースを1回やってみましょう。


なんて憤慨しながら撮ったパドックの写真。ストレートアウト側のレストランに行くために、いちどコントロールタワーを通る必要があったので撮ってみました。

それにしてもレストランのドイツ人とM氏は本当に許せん!

そんな
オレの心とは反対に、ゴールに向けていい天気になってきました。



キッチリ2時間走ってもらって、7時10分に岸本さんから藤岡さんに交代。オレはずっとピットで待機ですが、それでも休み時間をもらえるのは違います。

藤岡さんは14分台でタイムはもうちょっとだったけど、安定しない天気をしっかりと走ってくれました。

ちょっと短めのスティントを終えて、8時32分にオレに交代。ここからは完全3人体制です。


オレ、なんかいそいそとヴィッツに乗り込んでるなあ(笑)。ドライバー交代のヘルプをしてくれているのはさっきまで乗っていた岸本さん。疲労のピークに決まってるのに、ドライバーも全員でレースを支えます。

メカのT橋さんは給油の時間を使って、エンジンまわりチェック。

じゃあ久しぶりの昼ニュル行くで〜!


コースインした周のアデナウ・フォレストの入り口。5速全開で下って登る、時速175qの最高速をマークしたポイントです。

下りから登りに変化する縦Gがかかったところで、突然マシンが右に
フッと平行移動!

クラゴン「うあーT橋さんやばいよー。たぶんロアアームのブッシュ完全にイッてるよ〜」
T橋さん「走れそうですか〜?」
クラゴン「まっすぐ走るぶんには何とか大丈夫だから、ステアリング系とかは大丈夫。だけど縦Gがかかるところは全部アクセル抜かないとダメだし、カルッセルのバンクを走ると
バキッと折れちゃうかもしんない。岸本さんと藤岡さんにカルッセル立ち入り禁止って言っておいてください。」
T橋さん「了解〜」

レース開始から17時間。

ここまで無事なのが奇跡なんだから、ブッシュくらいは大目に見ましょう! あとはゴールまで14分ラップでとにかくサスペンションに負担をかけない走りです。

T橋さん「クラゴンさん、聞こえます?」
クラゴン「はいよ〜」
T橋さん「寝ていい?」
クラゴン「ほえ?」
T橋さん「もう限界…インカムつけて寝るから、何かあったら無線で起こして…」
クラゴン「…おっけー! 何があってもオレがピットまで絶対に運びますんで、ガッツリ寝てください!」

ダメなマシンをロクな工具もなしに、寝ないで決勝まで運んでくれたメカさんです。寝かせるくらいのサービスができなけりゃオトコが廃るってもんだ!

ぞして、レース中にメカニックが寝るという
前代未聞の放置プレイが(笑)。

クラス順位はカルタス、カルタス、シトロエン、フォルクスワーゲンと来て、我等がヴィッツは5位。前と5周差、後ろのミニクーパーと9周差です。


このスティントはちょっと短めで10時15分に藤岡さんに交代。マシンとコースの注意点を伝えて、コースに送り出します。藤岡さんが無事にスティントを終えれば、残るは約3時間。チーフメカの武ちゃんによると「マシンのこれまでのストレスを考えると、ラスト3時間はクラゴンと岸本さんに行って欲しい。」ということでした。

だったらスタートをやったのはオレだから、ゴールは岸本さんでしょ。英語ができるからというだけの理由で、人より大きな仕事をしてもらったし、ゴールをまかせるドライバーとしてドライビングも文句なしです。

12時15分、藤岡さんからまたオレに交代。なんとトータル9時間オーバー、本日5回目にして、最後の出撃です。



幸か不幸か(?)マシンの状況は第4スティントとあまり変わらず。カルッセル立ち入り禁止はそのままで、周回を重ねます。

この時間になるとコースのいろんなところに散っていたり、寝てたりしていた観客のみなさんが、観戦ポイントに帰ってきていて、観客が増えたんじゃないかっていうくらいの人が見えます。

例の水曜からあるテントもそのまんま(笑)。

ファーストカマーのときは「なんで火曜にいるの?」と思ったけど、この人たちの前を走るのもこれで最後かと思うと、あんまり無心じゃいられませんね。


この時間になるとどこのピットでも完走しようと必死です。ウチはコース上で、この人たちはピットで。場所は違うけど、目的はひとつ。

1時間、復活したT橋さんから無線が。

T橋さん「ちょっと早いけど、時間です」
クラゴン「………了解」


今後はこっちが万感の思いを込めて「了解」。


ちょっと名残惜しいけど、ホントはもっと走りたいけど、できればこのままゴールまで行きたいけど、
ちょっと足りないくらいがちょうどいいのさ!!


DAY7−PART3