オレたちのS2000




高く登ろうと思うなら、自分の脚を使うことだ。

高いところへは、他人によって運ばれてはならない。

ひとの背中や頭に乗ってはならない。



― フリードリヒ・ニーチェ ―  





その性能、耐久性、コスト、レースでの縁まで含めて、クラゴン部屋師範代としてもオレのマイ鍛錬マシンとしても、これ以上のマシンはないでしょう。いやええ買い物しました。

と同時に、S2000に関しては言いたいことがいっぱいあります。

同じFR、2シーター、オープンスポーツで「このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる」ロードスターと、高性能だけど、楽しいけど、なぜか幸せにはなりにくいような気がするS2000。

販売終了になっていて、しかもマイカーだから言える、親方全開コラムです。


まず2009年のS2000生産終了時に所長とオレで書いたアレをご覧ください。

オレのはまあこんなもんかですが、所長の分析は素晴らしいですな。ナウなヤングにバカウケのアレを、このレベルで見てる人がどこかにいますかね。


では、S2000の話をアレしましょう。

「50周年記念のオープンカーだから、タイプRもクーペ仕様も作りません」と言いつつ(?)、S2000は何のことはない、ただのレーシングカーです。

繰り返します。ただのレーシングカーです。エンジン、ボディ、アシ、に至るまで、走りに関する部分はインテRよりも完全にレーシングしてます。

レーシングカーにしようとしてもならないクルマが多い中で、いぎなりレーシングしている稀有なクルマです。そこをFRだとかオープンだとか2シーターだとか、パッケージングやいろんな情報からスポーツカーだと思って、ロードスター的な楽しいスポーツカーを期待してると、違うんだよね。

スポーツには「競技」という意味と「娯楽、楽しみ」という意味があるそうですが、レーシングは要約しすぎると「戦争」という意味ですので、レースの現場ではすぐに人権問題(笑)が発生します。楽しむ余地なんかどこにもない。

だから、S2000をスポーツと思うかレーシングと思うかで、認識が全く変わってしまいます。スポーツにしては斬れすぎるけど、レーシングだったらこれくらいの斬れ味でほどよいです。

チューニングをやりすぎてしまう人が多いのは、2リッターにしてはかなり激しいタイムが出るから、気になるのと同時に、スポーツだと思ってたら、「なんじゃこら」とビックリしてイジリ倒してしまう面もあるんではないですかね。もともとただのレーシングカーなんだから、そこを何とかしようとしてより硬く動かないようにすると、そらいい方向には行かないでしょう。

FRだから乗りやすい、楽しいという考えはS2000には通用しません。

その意味では、「FRスポーツ」で楽しく乗れるクルマを想像したら、もうダメです(笑)。なのにスポーツげな話が多いから間違えやすいんだよなぁ。新世代リアルオープンスポーツ(自称)だったからしょうがないとはいえ、そこを斬り込んでいけないなら、インプレ記事なんかいらないよね。カタログで十分。

あるいは踏みが足りない人にはわからないのかもしれませんが。そのときは「個人の感想です」って明記しとかないと。

ロードスターがイイのはFRだからと同時に、ロードスターだから。その証拠にカスみたいなFR車だっていくらでもある。パッションの問題であって、駆動方式の問題ではありません。


そしてもうひとつ、S2000最大の問題は、やっぱりタイプRじゃないってことです。

ホンダのDNAといえば、それはレーシングに決まっとるでしょう。そこもスポーツではありません。もちろんNSXという素晴らしいクルマもありますが、みんな想像する元気なホンダ車って、ただのハッチバックとか、ただのFF車をやりすぎた(笑)クルマじゃないですか。

もともとがスポーツカー屋ではないわけですよ。

みんな期待したホンダの後輪駆動とは、そういうクルマ、つまりタイプRであるべきです。50周年記念のオサレなオープン2シーターとしてS2000に興味を持つ素人さんよりも、タイプRシリーズの流れでS2000に乗り換える人を大切にするのが、道理というものでしょう。

タイプRの本籍がサーキットなら、タイプR以上でタイプRじゃないS2000は住所不定じゃないですか。

ソレを裏付けるエピソードとして、さんざんウエイトを追加された挙句、最後は上のクラスに編入という事実上の追放処分になったレースがあってさ。2リッターなんてインテRかシビックRかS2000しかないようなもんだから、どれが勝ってもホンダだべさ。

なのに、S2000はダメ。本来レギュレーション的に4座席じゃないとダメとはいえ、ユーザーが自分で買って造ったレースカーなのに、使い道ないんだぜ。少なくとも「せっかく台数が集まってるんだから、ぜひやってください」という状況ではなかったな。むしろ「やりたければタイプRでどうぞ」です。なぜならサーキットはタイプRで、S2000はタイプRじゃないから。

という具合に、S2000はかわいがられない子だったんですよ。そうだと聞いたことはありませんが、客観的事実を並べていくと。

コレだけのクルマを造っておいて、それはないべさ。

かと思えば、DC5とEP3は同時に売ってるわけでしょ。

厳しいことを言えば、この矛盾というか不可解というか一枚岩ではないというか突き抜けてないカンジは、第3期ホンダF1にもつながると思うんだよなぁ。多額の予算を投入して、最後はなんでそこで辞めちゃうの、というあのアレです。あとNSXの発売中止も。サッパリわからん。


いやもちろん理由はあったんだろうけど、そこでみんなが「もうやめてくれ!」と言うくらいでも、やるのがホンダでしょう。

そういう節目でユーザーの期待を上回って来たからファンがついてきたわけで、金ないからレースやめます、なんて「普通だけど大丈夫?」 という話です。S2000にタイプRがないのも、そのプレイの一環でしょう。

だからS2000は、言わば終わりのはじまりのクルマです。

走行性能は完全無欠に素晴らしいけど、突き抜けてない。やりすぎてない。クルマというよりも「自動車」としてマジメに造りすぎたクルマ。F1で世界一になったおぢさん達が全開で造ったクルマではなくて、大企業がお客様の顔色を見て造ろうとしたクルマです。

初代インテRのあの時間外に楽しみながら造ったカンジ、「放課後感」はもう戻って来ないんだろうな。

と、カッコよく書いてますが、発端は内装がブ厚くて荷物が入らねえ、という話なんですが(笑)。

そういうところからわかるのか、といえばわかります。アレは細部にアレするといいますし、比較対象で天下無双のロードスターがありますから。突き抜けすぎて、雨漏りするくらいのヤツが(笑)。突き抜けるにはまず軸が必要なんだよね。その軸がスポーツとレーシングの間でブレているS2000は、やっぱり突き抜けることはできないでしょう。

ロードスターは軸がズバッと来てるから、雨漏りしても、エンジンが尋常じゃないくらい遅くても、まるで気になりません。だって枝葉末節だから。一方S2000は軸がブレてるので、細かいところを気にさせるし、イジリ倒したくなるんでねーかなと。

ちょっと違うけど、50周年でみんなで寄ってたかって造った、船頭の多いクルマともいえるかもしれません。そこは放課後作品の初代インテRと比べると厳しいか・・・。


で、問題はその住所不定のS2000を持つオレたちはどーするかです。

S2000がどういうモノなのか、敢えてタイプRにしないメーカーの都合はソレとして、こっちにはこっちの都合がありますので。

歓迎されない子だからこそツッパる。ホンダの正道であるタイプRではないからこそ、タイムにこだわりたくなる。でもどこまでやっても正当派にはなれない。例えばタイプR本にはS2000は入らないわけで、コレは不良化する理由としては十分でしょう(笑)。

この複雑な立ち位置が、真っ直ぐでいられない状況が、S2000オーナーを力みに向かわせる原因なんではないでしょうかね。

そしてコレはまさに
次男坊ワールドです。

タイプRシリーズが長男だとしたら、タイプRじゃないS2000は次男扱いだし。一家に問題を起こす跳ねっ返り(笑)。

そんな困った次男坊が楽しく生きるにはどうするか。

独立独歩。コレしかありません。

「大企業がお客様の顔色を見て造ろうとしたクルマ」と書いたのは、造ろうとした部分もあるけど、そうじゃない部分もいっぱいあるから。幸いにして走りに関わる性能は、好きで負けないおぢさんたちが、全開バリッバリじゃないですか。

オープンとか2シーターとかFRとか、オトコのクルマはそんなチャラい価値観に拠る必要はない。S2000はその比類ないシャシーとエンジンの性能を活かして、完全なるドライビング鍛錬車としての道を往けばよろしい!

ドライビング鍛錬車がたまたま屋根が開く、ドライビング鍛錬車がたまたまスポーツカーみたいなカッコしてる、ドライビング鍛錬車がたまたまリア駆動。

ドライビング鍛錬車だとすれば、挙動がちょっとアレでもしゃーないんですよ。だってドライビング鍛錬車だから。

まあ挙動がアレなのはまず操作がアレなだけなんだよね。春場所でアレしたように、アレをアレしていけば、何も問題になりません。ということは強制アレ鍛錬プレイ車。むしろ望むところです。

フランクフルト空港のレンタカーで出て来る最新のメルツェデスよりもカッチカチのボデーからは、ポルシェレベルのステアリングインフォメーションが入り、トルクがないような気がするエンジンは、踏みの甘さ強制ギプス。踏みが良くなれば入る情報も増える。そうやって、いい循環でドライビングの質を高めていけるクルマなんですよ。

だからクラッチミートするのも鍛錬、シフトチェンジも鍛錬、アクセル踏むのも鍛錬、ブレーキ踏むのも鍛錬、ステアインするのも鍛錬、ついでに荷物を積むのも鍛錬じゃー。

それでサーキット走って軽く10万キロ以上、Yっちゃん号なんか16万キロ超えてもボデーが生きてるんだから耐久性もバッチリチリバツ。ドライビングに関するクオリティはもうパーフェクトと言っていいでしょう。オレが言うパーフェクトのレベルは、弟子のみなさんならおわかりでしょう。でなきゃ買わないけどさ。

クルマとしては「終わりの始まり」の一方で、ドライビング鍛錬車としては最後の「正しく間違ったホンダ車」なのがS2000です。

生産終了から3年も経ってメーカーの重力も薄くなり、タイプRシリーズも絶滅して重力が薄くなり、そろそろ住所不定も気にならなくなる時期でしょう。

これからのS2000は、オレたちのS2000です。独立独歩のスタンドアローンな存在として、自由に価値を見出していこうではありませんか。