さよならS2000
藤田所長&クラゴン特別コラム


藤田所長 クラゴン

再会(ツァイチェン)! S2000

さらば最強のFRマシン!

春は別れの季節。まもなくS2000が生産中止になるということなので、何か一言コメントしておきましょうか。

いまさらワタシなんぞが言わなくても、S2000というクルマはすごいクルマだ、FRでエンジン最高! パフォーマンスもけっこう毛だらけ。なのに……。

S2000について語ろうとすると、いつも「なのに…」というデッドロックに乗り上げてしまう。この「なのに…」の正体は、要するに支持者が少ない(売れていない)ということに尽きるのだが、その理由についてはずっとモヤモヤしてきた感がある。でもS2000の生産中止前に、ようやくワタシなりには納得できる答えが見つかった。

それは某誌での、S2000の生みの親=上原繁氏へインタビュー(2007年)がきっかけだった。上原氏にお会いしたのはそのときが初めてというわけではなかったが、上原氏のクルマ作りに対するまじめな姿勢に改めて感心してしまった。知的でまじめ、山師らしさが一点もない上原氏。それはそのままS2000のキャラクターと重なっている。

しかしスポーツカーにはどこかで「だまされてもいい」と思わせる要素が必要なのではないだろうか。たとえばポルシェなら「世界最速」幻想だったり、フェラーリだったら「このクルマなら死んでもいいい」という幻想だったり、とにかく各々「美しい誤解」をして、そのクルマに惚れ込むわけだが、S2000はまじめすぎて幻想しづらいというか、誤解しづらい。それがひとつの欠点になってしまっているのではないだろうか。



また'まじめ'というのは、'力み'と言い換えることができる。ホンダというメーカーは遊び心も洒落っ気もあるメーカーなのに、'スポーツ'とつくと急に力みすぎる傾向がある。とくに創立50周年記念モデルのS2000は、全身の筋肉をパンパンにバンプアップさせたようなクルマになってしまった。まさにパワーこそ力、全力投球! といった感じがする。「スポーツなんだから、全力投球のどこが悪い」といわれてしまうかもしれないが、力むと戦う気持ち=闘争心が内側に向いてしまう。じつはこれが大問題なのだ。

人間だって同じこと。肩に力が入りまくって、胸が詰まって、腰がガシッと固まって、太ももがつりそうになるほどパンパンに張っていたら、野球でもサッカーでもバスケでも、相手との戦い以前に、自分自身との戦いに体力・気力を消耗してしまう。

スポーツカーがスポーツカーとして輝くためには、いいライバルの存在が欠かせない。打倒ポルシェを掲げ続けてきたGT−Rなどはその典型的な例だ。しかし、S2000のユーザーは外なる好敵手に闘争心が向かわずに、「自分 vs S2000」という構図にはまっている人が多い気がするがどうだろうか。チューニングにしても必要以上に攻めないと満足できなかったり、走り方も「止まれ」「曲がれ」と命令形が目立ったり…。これはワタシの偏見かもしれないが、S2000をもっと楽しむには、S2000の力んだキャラクターに感化されず、ユーザー自身はゆるみきって解放的な気持ちでドライブしたらいいのではないだろうか? 新車の場合、そうした力みの引力はより強い傾向があるが、年式が古くなってくるとドライバーがクルマに引きずられることが少なくなるので、じつは生産中止になってからが、S2000の魅力が花咲く時期なのかも、とワタシは考えているのであった。

※ VTEC SPORTS Vol.27 初出のコラムを加筆訂正


















S2000はホンダが作った最強のFRマシンだ。

スーパー耐久ではあまりの速さにウエイトを追加されまくった挙句、2リッターNAのクラス4から、3.5リッター2WDのクラス3に編入され実質的に追放されてしまった。ニュルでも2008年にフレパーモータースポーツの2.2Lスーパーシビック(自称)で準優勝したとき、同じクラスで優勝したのは2.2LのS2000だった。確か総合で30位前後。S2000に負けたポルシェ911やBMWM3などいくらでも見つけられる。しかもその速さがシャシー性能に裏付けられているのが素晴らしいのだ。

9000回転まで回るエンジンに目が行きがちだが、実はレースでは8600回転までしか使わなかったし、直線ではハンディウエイトがあるとはいえDC5インテRの後塵を拝した。ドライバーとして言わせてもらうと、エンジンがスペックほど頼りにはならなかったほど、シャシー性能が際立っていた。

スーパー耐久シリーズの予選初アタックでポールポジションを獲得し、全国区デビューを果たしたスプーンS2000は、限界を突き詰めるレーシングカーでありながら「楽しい」と思えたはじめてのマシンだった。100Lの燃料タンクが入るスペースがトランクしかなく、満タン時にはバランスが崩れたが、その重量すらもトラクションになって決して遅くはなかった。フロントタイヤが摩耗すればリアを使い、リアが減ればフロントを使い、タイヤのコントロールも自由自在だった。初レースでS耐レギュラー陣を相手に後ろとの差をコントロールして3位を守り、次のレースではシフトレバーが折れても(折ったのではない)3位。今考えてもやりたい放題だった。今の方がやりたい放題だけど。

しかも速さもハンパではなく、2006年の十勝24時間レースでは、接触(オレじゃないよ)によるタイムロスを取り返すための全開指令をいいことに、RX−7もランエボ(しかもオーリンズ号!)もコース上でブチ抜いてやった。もちろん夜だ。S耐での最初の表彰台がS2000なら最後の表彰台もS2000。思い入れは人一倍あると自負している。



 その思い入れを含めて言わせてもらうと、S2000は、というよりもホンダは果たしてスポーツなのかと思うことがある。今まで乗った範囲では、EF/EGシビック、DC/DBインテグラタイプR、EK9シビックタイプR、どれもレースで活躍したのは、軽量コンパクトな車体にハイパワーなエンジンをブチ込んでいたから。シビックやインテグラを買った人も、1台でどんな用事もこなす最低限の広さの室内、サーキットに耐えるほどタフでしかも安く維持できるパーツ類、そしてアホみたいに速いエンジンに魅せられたからではないだろうか。そういう意味では、みんなに支持されてきたホンダ車の姿とは「レーシング上等の普通のクルマ」であって、決してスポーツカーではない。だけどスポーツカーではないからこそ、みんな買うことができた。だからS2000の販売終了を「ホンダのスポーツがなくなる」というのは、気持ちはわかるけどハッキリ言ってもともとそれほどでもないと思う。S2000も例に洩れず、ただ「エンジンの正義」を掲げた他車種と比較して、シャシー性能がよりレーシングしているだけであって、ロードスター的な楽しいFRスポーツをするクルマとはちょっと違う。だからFRだからといって油断してはいけないのだ。レーシングな車体とレーシングなエンジンとレーシングなハンドリングを得た、スポーツカーのS2000。果たしてS2000はスポーツなのかレーシングなのか。そこにタイプRにない難しさがあり、間違ったチューニングに走ってしまう要素があるのではないだろうか。

 スポーツカーを作るにはエネルギーが必要だ。S2000の生産終了は残念だが、次のS2000をエネルギー不足のまま、中途半端な状態で出されては困る。だからS2000はFRに餓えて造り出した1代限りのオトコのクルマでいいと思う。今持っている人は、販売終了をなげくよりも、唯一無二のS2000に乗り続けられることを喜ぼう。いずれエネルギーを充填し終わるころには、技術者のスポーツカー気分も盛り上がっているだろう。そこでドバッと解消できるクルマを作って欲しい。本来技術者はクルマを造ることによってのみ解放されるべきで、義務や仕事でクルマを造ってはイカン! 2シーターでなくても、オープンでなくてもいい。筑波で2周乗っただけでダメなのがわかるのがスポーツなら、スポーツなんか考えなくてもいい。本物のタイプRを、全力を尽くして造り上げるべし!!