都市伝説 第16〜20話

第16話  続・ABSの都市伝説

巷はプリウスのABSで盛り上がっている真っ最中ですが、こちらは何も関係なく行きましょう。乗ったことないから何も知りませんので。でも短絡的にABSがダメだとは思って欲しくないな。


■人は都合の悪いことを忘れる。
忘れます(笑)。

■人は特殊な状況をよく覚えている。
特殊な状況のデメリットは強く印象に残り、日常的に享受しているメリットは記憶に残りにくいもんです。

■ABS/ブレーキ性能は車種ごとに差がある。
本題はコレ。ABSはブレーキロック防止装置なわけでして、ロックしたら介入するもんです。そしてブレーキロックするかどうかはタイヤの接地性、あるいはタイヤのグリップそのものの問題です。

ABSの制御の粗さが問題だとしたら、ABSそのものの性能だと推測できるし、一方「ABSが早く効きすぎる」ということに対しては、シャシーの性能も考えなくちゃいけません。わかりやすくいうと、アシをガチガチに硬めて接地性が悪くなって、ABS作動が早くなるとか。それでABSがダメだってABSを切ったらまさに全損です。


あとこれはBMWを所有してわかったことです。

もてぎASTPの超低μ路(圧雪路相当)で、最短距離制動ならABSに頼りっぱなしでOKなんですよ。効く直前でもなく、コントロールするでもなく、力いっぱい踏んでれば100点満点。そこから障害物を避けるためには「抜きブレーキ」をやらないといけないけどね。

そうそう、ABSが働くとハンドルが利くってゆーのも半分くらい都市伝説だから。全く曲がらないことはないけど、摩擦円的に考えると、CFを出せるくらいなら制動距離も伸びます。ABSは特殊なヨーコン制御がなければ、コーナリングの補助装置じゃなくて、ブレーキングの補助装置です。

話を戻して、一方インテR(オレのはABSナシなので弟子のクルマです)は、ABSの制御がイマイチで、解除しないことはないんだけど、一発目のロックでエンジンストールして終了(笑)。こういうクルマはABSに頼りすぎない方がいいといえます。極端な例だけど。

同じ路面で同じドライバーで、2つの結論が出てしまいました。ということは、普段乗っているクルマ次第でABSに対する印象には差が出るということです。プロでも意見が分かれるのはたぶんこういうことでしょう。ABSに頼らない方がいいという人は、自分がそういうクルマに乗ってるか、ABSに頼らないのがプロっぽいというレベルかもしれません(笑)。

だから、ABSを使うか使わないかというよりは「自分のクルマはABSに頼りきっていいのかどうか」を知る必要があると考えるべき。

その上でなぜオレがABSに頼れ!というかというと、ABSより上手にブレーキを使えるとしたら、それはもうプロのレベルだからですよ。ABSの進化を考えると、ドライバーの方が上手いという領域は確実に減っているはずです。

一方、ABSに違和感を感じる人は、どんなにニュートラルな意見でも都合のいいところだけを取り上げて「ABSはダメだ」と解釈します。悪い言い方をすればABSを外すチャンスを探しています(笑)。

だからクラゴン部屋としてみなさん発信する情報は「ABSは絶対に外さないこと」「ABSに頼るのは悪いことだと思わないこと」。ABSに頼り切らない方がいいなんて言ったが最後、「ABS外しました」って話になっちゃう人がどれだけいることか!!

そういう意味では今の日本で、クラゴン部屋ほど質量ともに一般ユーザーの情報が集まる場所はありません。モータージャーナリストよりも専門誌よりも、オレの方が詳しいと自負してます。ジャーナリストさんも専門誌さんも、本業は原稿を書いたり本を売ったりすることであって、オレの仕事はみなさんに向き合うことだからです。

クラゴン部屋の弟子入りプレイ希望者が一般ユーザーといっていいのかどうかという問題はありますが(笑)。

ブレーキに関しては、怖いのは「ABSを利かせちゃいけない」と思ってブレーキを踏めなくなることです。

いずれにしてもクラゴン部屋でブレーキをバビョーンと踏んでみればわかります。踏むのは自分なんだから、人の話を聞いてもわかんないって。四の五の言わずにブレーキ踏んでみっていうのが正直なところかな(笑)。


とはいえ、オレがサーキットならいつでもどこでもABSを使うかというとそうでもないんだよね〜。なぜかって速度と姿勢のコントロールは基本的にABSとは関係ないことだからです。



第17話 ワイドトレッドの都市伝説 前編

ひさしぶりに都市伝説いきますか〜。

ワイドトレッドは都市伝説でもなんでもありませんが、ワイドトレッドの効果についてはなかなか正しく理解されていないようです。

というのも、つい最近実際にオレがやったというか、別件で行った某変態サービスで知らない間に準備されてまして(笑)、図らずも効果を体感したんですよ。マイカーのクラゴン部屋ロードスターでやると作用がよりわかります。



■ワイドトレッド≠高荷重
「トレッドを広げると荷重がかかる」というのは間違いです。

これは説明が難しい。なぜかって、オレが政治経済学部卒の完全に文系の人間だから。物理はベクトルの矢印が限界です。あの2本の合力(この漢字があってるかどうかもアヤシイ)が1つになるヤツ。

ロールするときは、タイヤのグリップに対して重心点に作用する遠心力がクルマをロールさせるわけですよね。そのタイヤの位置を遠くするとどうなるか。荷重はかからなくなります。

トレッドを広げることで「より高荷重に耐え得る」ことはあっても「荷重がかかる」ことはありません。

これはカートをやってる人なら誰でもわかることです。カートはバネもダンパーもついてない代わりに、トレッドそのものを変えてセットアップしますので。雨ならトレッドは狭く。グリップが高いときはトレッドは広く。カートでは常識的な話です。


■ワイドトレッド≠高グリップ
グリップがF=μmgで発生する以上、荷重が減るワイドトレッド仕様でグリップが上がることはあり得ません。

以上。


にゃんですが、トレッドは狭けりゃいいモノだったらレーシングカーはあんなバーフェンにならないわけでして、インプレ編の後編に続きます。


※クラゴン部屋では原則スペーサーは禁止です。市販品は強度不足やナットの噛み込みの問題があり最悪ホイールがブッ飛んでいきます。写真は某変態サービスの変態仕様スペーサーで、取り付けまでやってもらっています。

※ついでに書いちゃうと熱膨張に弱いアルミナットも禁止です。レーシングカーはみんな鉄チンナットですよ。


 

第18話 ワイドトレッドの都市伝説 後編

コメントがぜんぜんありませんが気にせず行きましょう。「自分がやったときは荷重が増えました!!」とか書かれると困るし(笑)。

「ワイドトレッドにすると荷重が増えるのは間違い」というのが前回までのあらすぢです。

ですが、ワイドトレッドにするメリットがないなら、実際にトレッドを広げて良くなったという人はいないだろうし、レーシングカーだってあんなにバーフェン仕様になることもありません。特にレーシングカーには乗りやすさは必要ありませんので。そこを明確にするための実地検証インプレ編です。

やっぱり何でも実践してみないとね。ドライビングに関しても同じで、実践できない人が何を言っても、だったら自分でやってみなって話ですから。ニュルブルクリンクは究極の実地検証です。


で、ワイドトレッドは実際にどうかというと、オレのロードスターは純正ホイールの+45から、ホイールとスペーサーで+37に変しました。だいたい左右合計で1.5cmくらいですかね。

ちょっとだけグリップが下がった(=荷重が減った)反面、挙動がマロヤカになりました。これは極端にいえばASTPのツルツル路面みたいなもんでして、限界が下がってすぐ滑るかわりに、滑ってからのコントロールはしやすいということです。舗装路でドリフトできなくても、スキッド路面ではみんなドリフトできますから。

なるほど、このマロヤカさを求めてトレッドを広げたくなる気持ちはわかるし、コレをグリップが上がったと思いたくなるのもわかります。

限界を使えない人にとっては、グリップが唐突に抜けなくなった=グリップが上がったになっちゃうんでしょう。そういう人は乗りやすさと限界の高さの区別がついていないので、セットアップはできません。メカニックに一番嫌われるタイプだな(笑)。


そしてもうひとつ無視できないのがレバー比の問題。トレッドが広がることでテコの原理で相対的にバネが柔く感じられるようになります。

これはクルマによって違うだろうけど、クラゴン部屋ロードスターでは片側7ミリくらいで、スプリング0.5キロか、もしかしたら1キロくらいの差を感じました。ロードスターはもちろんクラゴン部屋で開発したSPEC上達を装備してますが、実はこのSPEC上達がちょっと良すぎて(笑)、さらにもっと攻めて柔くしたSPEC上等というのがあるんですよ。その中間くらいの雰囲気がします。

なので、このレバー比で柔くなったぶんは、けっこうお気に入りです。


気に入らないところとしては、ホイールベースとトレッドのバランスが狂って、ちょっと直進性が落ちました。コレはアライメントで調整できるでしょう。

あとマロヤカになるってことは低速のキビキビ感は落ちるわけで、そうするとロードスターのロードスターらしいところがスポイルされたといえないでもありません。コレは厳密にはスクラブ半径とか関係あるのかなあ。

あとは厳密にいえばロールセンターも変わるはず。でも無視していいくらいなのかな。レバー比とトレッドの変化の方が影響大です。


そうすると、いつもは純正オフセットで、高速サーキットだけまろやか〜になるようにワイドトレッドにするという作戦もありそうです。

トレッドを広げたことで、バネが合わないとかアライメントが違うっていったら、それはもうセッティングの領域です。要するに速度、荷重、タイヤのグリップに対して適正なトレッドにすることで、よりタイヤの性能を引き出す、ということなんでしょう。カートはまんまそうです。

トレッドは広かろうが狭かろうが目的はひとつ。どちらかが高性能ということではなさそうです。

例えば滑りだしが急激だとか、安定感が欲しいという人には、メリットがあるかもしれません。


トレッドはサスペンションジオメトリーの領域の話です。自動車メーカーでも一通りのテストは絶対にしてて、様々な条件でベストのところにして製品にしてるはずです。その条件が走りに関係ないところなら、モディファイしてあげるといいでしょう。でもただカッコ優先で好きにするなら、純正以下で床の間に飾っといた方がマシなクルマ。まさに全損。

アシ固くしてピーキーになって、トレッド広げて落ち着いたとかマジでありそうだもんなあ。いくら金かけてんだか。こうなると人間が全損。

ツライチとかカッコで安易にオフセット決めてるのってすごーく怖いよね。まさに都市伝説です。

K葉変態サービスさんのおかげで、いいデータが集まりました。



第19話 実力が出ないという都市伝説 前編

前から書こう書こうと思ってたヤツを行きましょうか。

みなさん練習のタイムが本番は出ないとか、タイヤが新品なのにタイムが落ちちゃったとか、アタック中よりも軽い気持ちでサラッと走ったときのほうがタイムが出ちゃったとか、いろいろ思い当たるところはあるかと思います。

本来できるはずのドライビングができない、つまりメンタル面、別の言い方をすれば精神力ともいえるでしょう。

今ではニュルでガイジン相手にばきょーんとブチかましているオレですが、その昔はぜんぜんダメだったんですよ。94年くらいにカートをはじめて、初優勝はミラージュ4年目の2001年。カートではポールポジションは5回くらい獲ったはずだけど、1回も勝てませんでした。

中段とか後方から上がってくのは得意だったけど、勝てそうになった途端に緊張でガチガチ(笑)。いやもうなつかしい話です。


■実力が出ないのが実力
そんな経験も踏まえて思いついたのがコレです。

「実力さえ出せていれば」というのは実は意味がないんですよ。レースはその時、その場で人より速いことに価値があるわけで、前の日に速くても次の日に早くても意味はありません。「昨日レースだったらよかったのに」は実力が出なかったのではなく、ただの負け惜しみです。レースに合わせて最もパフォーマンスを高めるのも実力のうちです。

そこでオレは考えました。

実力が出なくても人より速きゃいいんじゃね?

緊張しまくってレースで1秒遅くなるなら、練習から人より1秒速ければいい。コンマ5秒ならコンマ5秒。レースで肝要なのは実力を出すことではなく、人より速いことです。

だから練習は本当に全開バリバリでやりました。ただ走るだけの練習を一切なくして、必ずメカニックを呼んで、新品タイヤを使って、予選と同じアタックをしました。費用がかかるぶん練習の回数は減ったけど、減った練習でもタイムを出さなきゃいけない。

そうやってベーシックな部分の速さを徹底的に鍛えると、だんだんとタイムの出し方がわかってきます。

タイムの出し方がわかればそれが自信になる。そうなると不思議なもんで、練習や予選のタイムで負けてても、決勝で逆転できる自信があれば、それがそのまま余裕になります。ここまで来れば、実力を出せなかったとは思わないでしょう。

まずは「実力が出ない=本当はこんなはずじゃない」と思わないで、自分の本番での実力と向き合うといいでしょう。その上手くいってない瞬間こそが、あなたの実力です。

実力のベースとなるドライビングを磨くことなく「実力を出せるようになる」ことはないというのが、オレの考えです。

長くなったので後編に続きます。



第20話 実力が出ないという都市伝説 後編

「実力が出なくても速きゃいいじゃん」という無茶な話が前編までのあらすぢ。後編は少し違った面から斬りましょう。


■メンタルトレーニングのリスク
「実力が出ないのが実力」とはいっても、やっぱり「こんなはずじゃない」とは誰でも思うでしょう(笑)。

そこで自信をつけたい、精神的に強くなりたい、そんな方法を模索されている方もいるのではないでしょうか。メンタルトレーニングってそういうもんだよね。

でも腕の伴わない自信って怖くね? 自分のタイムはこんなもんじゃない、自分のブレーキングは相手より上手い、インを刺せば抜ける、この速度でも自分だけは大丈夫、そんなヤツが走行会にいたら危ないでしょ。

人間にどれだけ自信があっても、クルマが許容してくれるかどうかはクルマのご都合次第。物理的な問題です。そこは他のスポーツとは明確に違います。自信がまあ実力以下の人には効果あるかもしれないけど、それでも実力が低い人ほど自分の能力もクルマの限界もわからないはず。その状態で自信だけがついたらいいと思うのは完全に間違いです。

例えばメンタルを鍛えるといっても、タイムアタックで一発を出す強さと、オーバーテイクの勝負の強さと、10周ブロックし続けてくじけない強さは違います。メンタルメンタル言ってもその差すら明確になっていないわけで、みんなして漠然と強ければいいと思っているところがまさに都市伝説です。


■レーシングドライバーは特殊
そしてメンタルに関してはレースをやってる人の言うことを真に受けない方がいいです。

なぜって、一度もレースに出たことがなかったころから「オレはレースをやれば絶対に勝てる!」と思ってるような、意味不明に間違ったメンタルの強さを持ってる人ばっかりだから(笑)。腕は絶対に負けてないからメンタル=精神力を鍛えるっていう方向でもあるわけで、腕が負けてないと思う時点で相当メンタルが強いと思いませんか。

いやオレなんかかないませんよ。

メンタルでかなわないので本質力を上げて勝負するしかありません。


というわけで、ダメな原因としてメンタルに逃げないで、しっかりと腕を磨きましょう。腕が同じようなライバルがいるとしても、まずドライビングでやることはいくらでもあるはずです。そしてドライビングスキルが上がれば、メンタルも強くなるものでもあります。