タイヤを転がせ! 前篇


みんな止めることを気にしすぎてると思う。

確かに止めるのは大切だし、しかも難しいからどーしても話題になるのはわかる。ただ、ブレーキブレーキと言い過ぎるのは、ひとつ間違えばまさに後ろ向きの話になりがちです。「ブレーキを残す」なんて典型的な例だな。

クラゴン部屋では安全を確保するためにブレーキをやるけど、ブレーキでタイムを削るなんて話はしたことありません。

クルマってのは止めるだけじゃなくて前に進めないと、つまりタイヤを止めるんじゃなくて転がさないといけないんだな。タイムを出すならクルマを前に進めるのが一番いいはずだし、気持ちよく走るにしても、少ない減速で曲がれて遠慮なくアクセルを踏めるコーナリング性能っていうのは、みんな大好きのはずです。

親方走見で「トラクションのかけ方が違う!」と思った人はご明察。それがタイヤを転がして前に進めるってことです。

こういう前向きのことも考えると、ドライビングはちょっと変わるはずです。まあ何よりも2009年は前向きに、ポジティブに、アグレッシヴに行きましょうってことで(笑)。


さて、前編はタイヤ本体の話。

タイヤの大切さはクラゴン部屋のもてぎASTP稽古に来たことのあるみなさんはご存じの通り。クルマが路面と接するのはタイヤを通してのお話で、ボディが直接路面とガリガリするのは、タイヤがさやうならしたり、ロールオーバーしたときだけのはずです。

つまるこころ、ドライビングとはそのタイヤをどう使うか、コレに尽きます。

ところがです。実はその前にとっても大切なことがあって、それはタイヤが「真円」で回っているかどうか。わかりやすくいえばブレなく回っているかどうか。ブレっていうのは要するにタイヤの上下の振動で、真円性の低いタイヤっていうのは、上下にジャンプと着地を繰り返しながら走ってるようものです。

だから真円性を上げる=グリップを上げる、といってもいいのですよ。



そこで大切なのがタイヤの組み方。

機械でぶいーんと回してウエイトを貼ってバランスを取れば、誰がやっても同じなんてことは全くなくて、良いメカニックはネジの締め方から違うように、ベーシックなところで腕の差が最も出るものです。

ちょうどロードスターのタイヤを使い切ったので、レブスピードの2008年11月号にも掲載されている京葉サービスの阿倍さんちにお願いしてきました。もともとは武ちゃんつながりで知ってたんだけどね。


いや〜アヤシイねえ(笑)。

みなさんのご期待通り、ショールームらしきものはありません。オレの知り合いってそんな人ばっかだな。Gスポとか本郷さんとか武ちゃんとか。この素人お断り感がたまんないんですよ。

小奇麗なショールームでコーシーに飲みに行くんじゃなくて、タイヤをバッチリ組んでもらうために行くんだから。腕さえあれば何の問題もないし、何より腕に金を払うべきでしょう。

まずホイールだけを回して、ゆがみをチェック。
はいしっかり歪んでました(笑)。

ハイトが低い扁平タイヤだとちょっと厳しいとのことで、14インチ万才!
ホイールのフチ、ビード部のゴムのカス。こういうところからも空気が漏れるそうです。だいたいこんなとこにビードがはまっても真円性もヘチマもありませんな。
ヤスリでカスを落としてビードがピタッとはまるようにしてくれます。
量販店じゃこの手間はかけないだろうね。

阿倍さんのカッコが違うのは、写真映りを意識したからです(笑)。

ホイールナットが当たるテーパーの部分がガリガリに。何でも純正ナットがイマイチでテーパー部にしっかり当たってないそうですだそうです。

ついでに書くとアルミナットは熱で膨張してゆるむから絶対に使わないように!! レーシングカーは鉄チンナットです。
そしてタイヤを組む。
バランサーで回してチェック。

普通はここでウエイトを貼っ付けて終了です。

「あ〜回ってねえなあ」

ホイールのセンターは出てるはずなのに、よく見ると確かにトレッド面(接地面ね)が上下してます。
オモムロにタイヤを組みなおす。

わざわざ一度ビードを落として、タイヤを回転させて真円に回る位置に修正します。これを位相合わせというそうです。
そしてまた回す。

「お、いいじゃ〜ん」

さっきのブレがウソのようにピタッと収まってるんですね〜。これは見ないとわかんないな。興味のある人は作業を頼んでみてください。ここでやっとバランスウエイトを貼り付けます。位相合わせをしてるからウエイトも最小限。
当日雨だったのもあって、最後はご丁寧に表面をスクラブまでしてくれました。

新品タイヤでいきなり走らせたら一般道でも危ないからね。こういう気遣いがホントに使う人のことを考えてるってことでしょう。
そしてシャーンと回るタイヤが完成!

この作業が×4本で、しかもゆがんでるホイールや、位相合わせをしてもブレの残るタイヤをリアに回したり、とにかく走っている時にどうかをとっても考えてくれます。

ちなみに今回はタイヤ持ち込みで作業だけやってもらって、1本だけどうしてもNGのタイヤがありました。京葉サービスで購入したら、そういうのは返品だそうです。ホイールも買ったら組む前に回してダメだったら返品。これだったら通販専門の安売り店で買うよりもいいじゃないですか。

位相合わせなんかは、何がどうなったら合わせられるのかがまったくわかんなくて、ちょっとしたイリュージョンでした。ブレたタイヤを見て、どう回したらいいかってなんでわかるんだろ。謎です(笑)。



実際に乗ってみてわかるのは、クルマが止まらないということ。普通に走ってると、クルマってフリクションで自動的に止まるでしょ。それがぜんぜん止まらなくて、最初ビックリしてしまいました。ラジコンにはじめてボールベアリングをつけたときみたい(笑)。

コレだったらロードホールディング以前に、転がり抵抗が減って速くなるんじゃないかな。同じ操作をしてタイヤだけでころーんと転がってくれたら、そんなにいい話ってあんまりありませんぜ。

レブスピード誌を見てみるとレポーターの山路慎一選手も絶賛のご様子です。そうだよなあ。

そもそもタイヤってのはフリクションの塊で、グリップのメカニズムそのものがフリクションなんです。ヒステリシスロスとか。そうすると、タイヤのロスってけっこう大きかったのかもしれません。

「ハイブリッドカーは実はタイヤで燃費を稼いでる」なんてウワサもあるしね。雨の日は絶対に乗りたくねえな。晴れの日も乗りたくないけど。


ちなみに京葉サービスは入口からこんなカンジで、しかもちょっと通りから奥なので、素人お断りの雰囲気バリバリです。

阿倍さんも絵に書いたような職人オヤヂでやっぱり素人お断りの雰囲気バリバリです(笑)。でも雰囲気だけで別に怖いってこともないし、話がとにかく面白いので、興味のある人はぜひどうぞ。クラゴン部屋に来られる人だったら大丈夫です。

だいたい敷居の低い職人のオヤヂなんかいたらニセモノだべさ。敷居は高くて当然。その敷居を突破した人がオイシイ思いをできるってことでいいんじゃないでしょうか。

一番多い仕事は、ドレスアップ系でインチアップしすぎちゃったのとか、他で「どうしても振動が出てどーにもならない」っていうのを何とかすることだそうです。


組み換えだけでもいいけど、タイヤも信頼性の高いのを買えるし、中古タイヤの販売もやってるそうです。1本だけフラットスポットを作っちゃったなんてときにもいいかも。スタッドレスタイヤも中古販売しているそうです。

場所は千葉方面から行くと、京葉道の篠崎で下りてすぐ、左側に見えるコスモのスタンドの手前の道を左に入ってすぐ左側…だったかな(爆)。道を覚えないなオレ。仕入れに出ていることもあるそうなので、必ず事前に電話を入れてください。

京葉サービス
東京都江戸川区篠崎6−23−5
TEL 03−3698−4733




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