タイヤを転がせ! 後篇

タイヤを転がしてる真っ最中!

タイヤを止めることばっかり気にしてないでもっと前向きな話をしましょ、というのが前篇のあらすぢ。そのために抵抗なく転がるタイヤとして京葉サービスのタイヤ組みを紹介しました。

後篇はオレの専門分野、ドライビングの話で行きませう。

実は「タイヤを転がす」っていうのはクラゴン発案じゃなくて、東北シリーズ時代にメカニックの本郷氏から言われたことです。

その本郷さんっていうのがマヂでオトコで、メカニックひとりとドライバーひとりなのに、タイム出せないと口を聞かないなんて当然でさ。でもオレも若くて「タイム出せば文句ねえんだろ」くらいに思ってたから、別に機嫌を取ろうともしなかったし、今となってはいい思い出です。ゴマスリで機嫌を取るような小物は全く相手にしない人だから、それでよかった…はず?

オヤビンやトビさんをはじめ、当時お手伝いに来てくれていたみなさんには多大なご迷惑をかけてしまいましたが(笑)。おかげさまで今はどんなチームに行っても驚くことはありません。



それはいいとして、ドライビングの初期段階において、まずラインがどうとか、ブレーキングはどこからとか、アクセルはどこから全開にするとか、大雑把な操作のタイミングを気にするんじゃないかと思います。

だからそういうところがとっても気になるそこの奥さんは、今まさにドライビングの初期段階にあると自覚しましょう。ショッキングな事実かもしれませんが、裏を返せば楽しいのはこれからです。

オレの恥ずかしかったカート時代を思い出してみると、できるだけ速度を乗せられるラインを探していた程度で、ただの大回りでロスしてるところもあったし、ステアリングは切りすぎ、アクセルは全開か全閉。どれくらいの速度でコーナーをクリアするかは考えたけど、タイヤのグリップなんか考えたこともなかったな。

そのまんまミラージュに乗っても当然勝てるわけもなくて、そこで本郷さんに言われたのが
「タイヤを転がせ!」でした。


具体的に説明すると、アクセルオフから全開までの空走時間を減らして、アクセルオンを早くする。だけどそのまま踏むとアンダーになるから(FFだし)、踏みこむのではなく
「タイヤを転がす最小限のアクセル」でクルマを前に進めるということです。

なぜか。
@ エンジンブレーキをかけないようにして、タイヤのグリップ力をコーナリングのみに使う。
A 同じくエンジンブレーキがかかるので、無意識のうちに減速してしまう。
B FF車なら、フロントで引っ張って旋回できる。
C 後輪駆動車は………秘密。時が来たら明かしましょう。

ポイントは@。タイヤを転がすことでタイヤのグリップを上手く使うこともできるというところですかね。だって欲しくてしょーがないタイヤのグリップを得られるんだから。

Aも効果は大きいです。しかも誰にでもすぐに効果が出るからバッチリ! 欲を言えば@を前提に高い速度でコーナリングに入ってAを上手く使えれば、相乗効果でなかなかオーバードライヴしそうじゃないですか。

これで全開ポイントまでのロスを減らす、タイヤを転がすことで無理せずにズッキューンとタイムを上げることができるという寸法です。前篇がタイヤの組み方で転がってもらうなら、後篇はドライバーがアクセルで能動的にタイヤを転がそうということで。


エンジンの都合を考えても、スロットル周辺の空気の流れが止まってる状態からパコッと全開にするよりも、少しでもスロットルを開けて、空気が流れてる状態からさらに加速するほうがいいんですよ。空気にも慣性力っていうのがあるから。だからもし全開ポイントが同じでもそこから先の加速は当然違います。

ロスを減らすことが出来て、しかも全開にしてからもオイシイなら、やらない手はないでしょう。無駄な減速をしてから回復する必要がないから実は燃費もいいんですよ。

よくある進入と立ち上がりの図で無理して説明してみませう。


こっちはみんなが信じやすい進入と立ち上がりの図。青ラインが進入、赤ラインが立ち上がりね。見たことあるべ。

こう認識したい気持はわかるけど、これじゃタイヤは転がりません。
こっちはタイヤを転がすの図。緑ラインが大まかなタイヤ転がし区間で、この部分の無駄な減速を防げるという寸法です。

イメージとしてつかんどいてちょ。


アクセルオンの場所がぜんぜん違うから、速いのは当然なんだよね。親方走見で「トラクションのかけ方が違う!」と思った人は正解。やってることがまるで違うわけです。

でもブレーキングで速度を落とし過ぎたらより早く転がしに入るし、突っ込みすぎたら旋回制動を使うから転がす領域は減るし、どこからどこまでかっていうのを厳密に説明することはできません。コーナーによってもクルマによってももちろん違います。

だからこんなコース図を使っても何の説明にもなんないんだよね。図のクオリティを見りゃわかるか(笑)。これも初期段階、極めて大ざっぱなレベルの話です。もっとクルマ本体の動きを考えないと先には進めません。まあ参考程度ってことで。


クルマっていうのは想像するよりも重くて、一度止まると動かすのが大変なモノです。不必要な減速をしないのは大きなメリットになるということを、この機会に知っておいてください。

とまあ長々と書いたけど、要するにコレって無加速スロットルなんですよ。

オレと所長が力を入れる理由がわかってもらえたらうれしいな。FFだったらフロントで引っ張る。四駆ターボならブーストをかけられる。後輪駆動だったら…はまたそのうち。駆動方式を問わず、スキルを問わず、即効果のあるドライビング法です。

みなさんスロットルの悩みは深いようで、定期的にバランススロットルなる記事があったりしますが、ここまで親切な説明は見たことねーな、と自画自賛しておきましょう。

ここでおまけに予選アタックのときの話をひとつ。

予選では新品タイヤのオイシイところをどう使うか。それが問題です。2分弱のサーキットで、予選では練習よりも軽く2秒、場合によっちゃ4秒も速いことがあります。その差はどこで生まれるかと言えば、いつもブレーキを踏むコーナーで踏まないからでも、いつもの倍コーナーに突っ込むからでもありません。

タイヤのグリップを信じて最小限の減速でコーナーにとりあえず飛び込む(笑)。これはレイトブレーキングとは違います。ブレーキングポイントはいつもよりちょっとだけ奥にするだけで、コーナリングスピードが上がるぶん、減速が少なくていいだけです。

そして普段じゃ考えられない位置からアクセルをパッキョーン!と開けてみる。これを全部のコーナーでバッチリできれば4秒コース。

そういうときって、コーナー立ち上がりで経験したことないところでリミッターが当たるんだよね。スプーン号のS2000だったら、いつもはSUGOのSPアウトから最終コーナーのちょうど中間で3速→4速に上げるのが、予選はSPアウトの立ち上がりで3速リミッターに当たっちゃうとか。距離でいえば100mとかの話です。それだけコーナー立ち上がり速度が速いってこと。つまりクルマを前に進めているということです。

スリックタイヤの話だから極端かもしれないけどね。でもブレーキングでどうこうとか言ってるうちは、間違いなく本物のタイムアタックにはならんのですよ。

2009年はぜひタイヤの転がし方を鍛練しにクラゴン部屋に来てください。

こっちはタイヤを止めてる真っ最中。一番上の画像と比べてみましょう。