Column

時代はZ軸コントロール!



クラゴン(以下クラゴン) 所長! 東京モーターショーはどうでしたか!?

藤田所長(以下所長) ウム、近直のテクノロジーが出そろっていた今回のモーターショーについて、ワタシの雑感を述べておこう。ひとことで言えば、これからは荷重の時代だということだ。

クラゴン 荷重ッスか!

所長 GT−Rの2ペダルMTをはじめ、ランエボ、ポルシェ、BMW、etc.の最新スポーツモデルには、電子制御技術が積極的に取り入れられている。そのおかげで、ハイパフォーマンス車でも大幅なオーバースピードでなければ、つまりタイヤのグリップ力が四輪トータルで及ぶ範囲だったら、スピンをしないのはもちろん、ハンドルを切っているだけで、ラインをトレースすることもできるようになってきた。
 それでも、上手い人と下手な人、タイムの速い遅いはハッキリと出る。その差がどこでつくかというと、それがズバリ荷重なんだ。ランエボのAYCを例に出すと、電子制御が介入するそのタイヤそのものを、しっかりと接地させるのがマストなんだ。そのためには荷重をかけて、最大限のタイヤのグリップを出すということが必要不可欠なんだよ。

クラゴン 電子制御というと、ミスをカバーする方向で作動するイメージがあって、結果としてドライビングがつまらなくなってしまうんじゃないかと心配してたんですけど、そういうわけじゃないんですね。

所長 いくら電子制御とはいえ、絶対にスピンやコースアウトをしないというわけじゃないだろ? タイムを出す方向に使おうとしたら、電子制御が効きやすい状況を作ってあげないと、速さにはつながらないんだ。具体的に言うと、摩擦円で説明できる前後左右のグリップ(G)コントロールにプラスして、今後のドライビングで考えなければいけないのは、上下方向のタイヤコントロールの鍛練だろう。いったい今どうなっているのか、つぶれているのか、それとも接地が悪くて戻っている(抜けている)のか、3次元的に考えないといけないんだよ。座標でいえばX軸(前後方向)、Y軸(横方向)のことはみんなわかっていても、Z軸方向についてはまだまだ。いままでのクオリティのX,Y軸コントロールにプラスしてZ軸方向のコントロールができるようになってはじめて、完成形といえるだろう。そしてこれこそがハイテクマシンの性能を引き出すキモになるんだ。

クラゴン ボクはABSすら付いていない、電子制御と無縁なクラゴン部屋ロードスターでも上下方向のコントロールを意識しているつもりなんですが…

所長 それはクラゴンがプロだからだよ。平面上(2次元)の摩擦円は使いきれるのがプロの条件。その上で荷重コントロールで、いかにその摩擦円を大きくするか、そしてタイヤ1本ではなく、4本の総和でいかにグリップを引き出すかを争っているのがプロの腕の見せ所だろう。

クラゴン なるほど。たしかにおっしゃるとおりで。

所長 だからハイテク車だろうがローテク車だろうが、Z軸コントロールは必須なんだけど、多くの一般ドライバーはX軸・Y軸のグリップもはみ出したり、余らせたりしているので、まずはX軸・Y軸優先で腕を磨いていけばよかったんだよ。

クラゴン 要はプライオリティーの問題だったわけですね。

所長 そう、でも電子制御が発達してきたおかげで、これからはX,Y方向のコントロールを電子制御がやってくれるクルマが増えてくるはず。エボ]が一番良い例で、X,Y軸方向は完全に電子制御がつじつまを合わせてくれるようになっちゃったんだよね。そのときに差が出るとしたら、それはZ軸方向のコントロールだろう。

クラゴン にゃるほど。もてぎASTP稽古の車学入門車座ではF=μmgの「荷重をかける→グリップが上がる」という指南をすでにしていますが、それをさらに深めていくことが、電子制御攻略に結び付くわけですね!

所長 だから時代は荷重、そしてキーワードとしてはZ軸方向のコントロールだ。詳しいことは企業秘密なので現時点ではいえないが、クラゴン部屋では例のドラテク四十八手の'荷重100%'としてすでにそこに着手しているし、これからさらにこういう方向の稽古を充実させていく方向になっていくだろうね。クラゴン部屋は現時点でも今までとは違うドライビングを指南しているけど、そのドライビングそのものも変化していくだろう。
 とはいえクラシックな制御のクルマだって、これからも弟子から求められるだろうし、クラゴン部屋の盛況っぷりを見れば、そのクルマにあったトラディショナルなドラテクを求める弟子だってどんどん増えていくだろう。だからX,Y軸を忘れていいというわけじゃないし、X,Y軸のコントロールができてZ軸のコントロールをできるようになれば、よりいいわけだよ。つまり、電子制御の有無に関わらず、これまで主にX軸・Y軸のコントロールだけを意識してきた人は、ここいらでひとつブレークスルーして、Z軸を含めた3次元のドライビングを勉強していこうことなんだ。

クラゴン ということは、電子制御でドライビングの自由度が下がるなんてことはなくて、よりディープなコントロールを求められるようになるってことですか。よくいう電子制御のイメージとは全く違う方向ですね。良く考えたらコレってF1といっしょですよね。電子制御がついてドライバーが楽をできるようになったり、腕の差が出なくなるなんてことはなくて、速いドライバーはやっぱり速いじゃないですか。

所長
 そうそう。F1マシンがどんどん進化して、ドライバー全員が速くなったかというとそうじゃなくて、凄いドライバーは相変わらず凄くて、逆に付いていけないドライバーが出てきているくらいだろ。一番勘違いしちゃいけないのは、テクノロジーが進化することで、つまらなくなるということじゃないんだよ。

クラゴン そのへんは勘違いしそうなとこですね。

所長
 スキーで例えれば、カービングスキーが普及してパンゲルターンは誰にでもできるようになった。その結果としてワールドカップのレベルが下がったかというとそんなことは全くなくて、むしろより変態度を増しているんだ。かつてはインゲマル・ステンマルクしかできなかったようなターンを、みんなができるようになった。みんなができるようになった結果、全員ゲタをはいたようにボコッとスキルが上がったわけだよ。昔はみんな8に対してステンマルクが10だとしたら、10が平均になったらステンマルクは12なわけだ。テクノロジーが進化したぶん、人間のスキルは高度化していくわけだよ。

クラゴン クルマが進化したぶん、ドライビングもさらに深いところに入っていくってことですね! こりゃ電子制御に対する認識を改めないといけないですね。簡単になるとか、つまらなくなるということはないと。

所長 表層的なテクニック論じゃなくなっていくということだよ。同時に、どんな時代でも優勝したりチャンピオンになったりすることの偉大さは変わらないということさ。時代が変わればドライビングも変わる。人間もテクノロジーにあわせてパラダイムシフトしていかなければいけないということなんだよ。総括すると、クルマがすごく進化して、XY方向は電子デバイスによってコントロールされる時代がすぐそこに来ている。もう2008年には荷重の時代が始まるだろう。現状では荷重という言葉が大安売りされている感があるけど、そういう時代に、クラゴン部屋がこれから伝えていくのはZ軸方向のコントロールだよね。

クラゴン その通りですね。今日はいい話をありがとうございました。早速現在考案中の来年の稽古に取り入れさせていただきます。というわけで、弟子のみなさんはお楽しみに!